臭い餌でも俺は食う

少し早い時間に出勤すると、エレベーターホールに黒い大きな背中が見えた。
雷電部長だ。相変わらず、でかい体にスーツがよく似合う。
俺の足音に気づいて、毛だらけの手を上げた。急いで近くに寄る。
「今朝は早いな。」
「電車のダイヤが乱れて、逆に早く着いちゃったんです。
おはようございます、雷電部長。」
すうっとドアが開いた。ほかに人影もないので、二人で乗ってドアを閉める。
部長が付けるコロンと親父の体臭の混ざった、とても渋い香りにそそられて、思わず鼻をひくつかせてしまう。
二人きりのエレベーター。なんてラッキーな日だ。
毎日毎日部長の隣の席で仕事してるのに、こういうシチュエーションはやっぱりうれしくなっちまう。
「なにくんくんしてるんだ、お前は。変態か?」
低い小声にはっと驚く。俺の鼻の穴、そんなに動いてたのか・・・。
エレベーターが上がりはじめた。すると、雷電部長の手がスーツズボンの後ろに消えた!
まさか!俺の目が、部長のビール腹と角張った顎を行き来する。
腹が、ほんの少しだが、きゅっと動く。太い腕は途中までしか見えないが、もぞもぞと動いている。
ぶりりりっ!ねちねちっむちむちっ。
「おっ・・・!」
雷電部長の顔が一瞬、しまった、という表情になった。
直後、空調を止めたエレベーター内に、ぷわーんと親父の屁の匂いが充満した。
いや、この肉質の強い臭みは、ウンコだ。
屁の後の、ねちねち、というのはきっと、ケツの穴からウンコが出た音だ。
「口、開けなさい。」
倒れそうなくらい興奮しながら、俺は言われた通りに口を開けた。
差し出された手の中は茶色。べっとりと、下痢っぽい汁が大量に付いていた。
指をすぼめて汁がこぼれないようにした手のひらに、下痢汁に濡れた実がごろんと乗っていた。
今日の部長、腹が少しゆるいのかな。ウンコがかなり臭い。
雷電部長が、臭い汁にまみれた手を俺の口に押し当てた。
「食べろ。」
低い声が、なんだかがらついてる。目もぼうっと座ってる。興奮してるんだ・・・。
ばくっと、湯気の立つウンコを口に入れる。
おえっ、くっせえ。
雷電部長のウンコはほぼ毎日口にしてるが、今日のはやたら臭いし苦い。
この前の新幹線で食ったのより苦い。
柔らかいウンカスがぬめぬめと舌に広がる。中からシメジが出てきた。
56歳のノンケ親父が消化し切れずにケツの中に溜め込んだシメジを、苦いウンカスと一緒に食わせてもらえるなんて。
「げっ!おえっ!」
「うまいか?今日は汁が多めで臭いだろう?この中で餌付けは初めてだが、臭いなあ。」
シメジ入りウンコをほおばりながらうなずく間に、エレベーターが会社のフロアに近づいた。
「汁も全部片づけなさい。もう着くぞ。」
ウンコを口に入れたままで、べろべろと舌を動かして汁をなめ取る。
手の中に溜まった臭い汁を口で吸うと、じゅるじゅると汚い音がした。
エレベーターが停まりドアが開くのと、きれいになった部長の手が俺の口元から離れるのは、同時だった。
 
「おはようございます。」
ビルの管理人さんだ。二人して挨拶を返す。
管理人さんは下に下りるらしい。入れ違いにエレベーターに乗り込みながら、鼻をしきりにひくつかせて言った。
「あれ、なんか臭いですね。くせっ、なんだこれ。」
「そうですか?」
雷電部長がとぼける。そりゃ、私が中でウンコしました、なんて言うわけないか。
「いや、臭いですよ。ウンコの匂いだな。床は汚れてないみたいだけど、なんだろう?
じゃ、私はこれで。ご苦労様です。」
ドアが閉まり、管理人さんは下へ下りていった。臭いエレベーターの中で、何を思うだろうか。
犯人が雷電部長だなんて、想像もできないだろうな・・・。
―この熊親父の雷電部長は、こんなにくっせえウンコをケツから出すんですよ!
すげえ苦いシメジ入りのウンコなんですよ!―
って教えてやりてえ。
部長、いやがるだろうなあ。
「ワシは便所に行くからな。先に入ってなさい。」
言いながらもう部長は歩き出していた。
俺もついていきたかったが、さすがに怒られそうだったのでやめた。
部長がウンコするとこ、すげえ見たいけど。
口にはまだ腐った実がいっぱいに詰まってる。
立ったままぐちゃぐちゃと噛んで、頬の膨らみがなくなってからフロアに入った。
 
「おはよう。」
10分以上経って、雷電部長がフロアに入ってきた。時間からしていつもの光景だ。
さっきまでの二人きりの餌付けを意識しないようにPCに向かってる俺の目の前に、毛だらけの手がずんと現れた。
「口、開けろ。」
ささやき声だ。目を落とすと、手にはすごいのが乗っていた!
どろどろの下痢汁の中に茶色い軟便の塊がごろんと二つ。
どちらも、いくつものシメジが中から顔を出していた。
がぶっと一気に二つとも口に入れる。マジで口いっぱいのウンコだ。
おえっ、くっせえ。すげえくっせえ。
あの後、便所でこんなに臭いウンコを出したのか。
56歳の腸内の苦みはすげえ。えぐい。
「ごっ、ごえっ!おえっ!」
ぐっちゃぐっちゃと噛んで食う。ぼろぼろと、大量のシメジが口にあふれ出す。
「うまいか?」
うなずく代わりに、後ろを向いて口を開け、中のウンコを見せた。
・・・部長、にかあっとすげえにやけ顔になった。
必死に飲み込み、手に付いた下痢汁もじゅるじゅると掃除してから、俺は聞いた。
「昨日の晩、シメジ食べたんですか?」
「昼に食ったなあ。角の店の定食に入ってたからなあ。」
それから、俺の耳に口を付けて言った。
「ワシの代わりにちゃんと消化しておきなさい。犬塚はワシのなら消化できるだろう?」
俺はもう、雷電部長に抱きつきたい気持ちで、うんうんと何度もうなずいた。