臭い椅子

尻の臭い親父が座った場所は臭い尻の匂いがする。これは鉄則。
今はウォシュレットのせいでなかなかそういう"尻の臭い親父"に出会えなくなってしまったが、
普及する前は意外と臭いのに遭遇できた。
もちろん、内の父も激烈に尻が臭かったし、飲みに来る近所の親父の座った場所も臭かった。
酒飲みの親父たちに尻が臭いのが多かったように思う。
きっと、酒のせいでいつも下痢便を垂れていたんだろう。
下痢便は拭き取りにくいから、結果的に尻が臭くなってしまっていたのではないだろうか。
 
父はというと、尻の拭き方そのものに問題があったのだと思う。
一口に尻の臭い親父と言っても、尻の匂いの程度は尻それぞれ。
なんとなく座面全体に尻汗っぽい体臭が残る親父、
座面の中央に尻穴の匂いがつんと残る親父、
尻穴の当たるところを中心にウンコの乾いた匂いがむわっと残る親父。
内の父は、そのどれよりも尻が臭いのだ。
座面に鼻を押し当てると、尻の穴がどこに当たっていたかがすぐ分かる。
ぷーんと鼻を突くほどの湿ったウンコの匂いが残っているからだ。
「うっ、くせえ」と思わずうめいてしまうことも一度や二度ではなかった。
まさに"尻臭王"と呼ぶに相応しい尻の臭さである。
座面の中央は、やや縦長の楕円形の範囲で、全体的にウンコ臭い。
股の間くらいの、一番臭いところを鼻で探り当てるのが楽しみだった。
居間で父が新聞を広げながらどっかとあぐらをかいて座り、15分から30分ほど食事を取る。
そして、自営業なので店に出ていく。
誰もいない居間で、先ほどまで父の座っていた畳に顔が来るようにうつ伏せになり、
体重の重い父の、臭い尻の穴が押しつけられていたところを鼻で探す。
期待どおり、ぷーんと強烈にウンコ臭い一点が必ず見つかる。
そこを犬のように嗅ぎながら、周辺の臭いところも嗅ぎ回りながら、しょっちゅうセンズリしていた。
せいぜい30分、尻を落ち着けただけで座面を臭くしてしまう父。
父も例に漏れず、下痢便や軟便が多かった。酒も飲んでいたが、圧倒的に食べすぎていた。
おそらく、でかい尻にはいつも、割れ目や穴の周りに拭き取れなかったウンコがいっぱいこびりついていたはずだ。
父の股の間からは臭い尻の匂いがむわあっと上っていき、父本人も自分の尻の臭さを鼻で嗅いで知っていただろう。
しかし、それでも普通の時代だった。程度の差こそあれ、尻の臭い親父は父だけではなかったから。
親父たちは、ウォシュレットに頼らず、食生活による便の質と、身に備えた尻拭きの技術に応じて、自分の尻を臭いままにしていた。
父は、そんな親父たちのなかでも飛び抜けて尻が臭かった、というだけだ。
 
父はよく寝室で映画も見る。たいてい、トランクス一枚で、2時間くらいベッドに腰掛ける。
見終わった父が小便に立つ短い隙に寝室へ直行する。
ズボンごしとは違い、まさに尻の穴に付いたウンコそのものの臭い匂いが鼻を襲う。
長時間同じ場所に座っていたせいもある。まるでベッドにウンコを置いていたような、すごい臭さだった。
寝室には父が長年使用した椅子もあった。本を読むときに座っていたようだ。
その座面には、つーんとした臭い尻の匂いが常に染み着いていた。
裸族の父のことだから、ウンコの拭き取れていない尻を直接乗せていたのかもしれない。
愛用のワゴンカーにも大型バイクにも、運転シートに父の尻の乾いたウンコ臭が染み着いてしまっていたのは、この鼻がよく知っている。