禿げ親父の家へ

その週末、私は早速徳田さんの家に向かった。
おそらく朝は早いだろう。私は5時にバイクで自宅を出発し、まだ薄暗い農道へ入った。
山のふもとで農道から少し道を外れ、曲がりくねった先に例のトラックが停めてある平屋建てを見つけたときは胸のざわめきを抑えることができなかった。
この家にガチムチ禿げ親父が生活している。60代農夫が寝起きし、ときどきはあの小柄な奥さんにのしかかってセックスしている家だ。
隣に家はないので、発見されないように少し遠目にぐるりと農夫の愛の巣を見て回る。寝室になっていそうな場所の窓はカーテンがレースだけになっている。
時計を見ると7時手前。今は朝食だろうか。親父さんはもう食べ終えて、母屋から少し離れた納屋で作業でもしているだろうか。
親父さんに会いたい。できれば家のチャイムを鳴らすのではなく、納屋で直接声をかけたい。
納屋へ行って空だったらまずい。そのまま隠れるのはさすがに不法侵入になるし、戻る途中で家の誰かに発見されるかもしれない。
あたかも知り合いのように、自然な足取りで納屋へ向かい親父さんに声をかけたいのだ。
やれやれ、これじゃ私はストーカーだな。尻の中をいいように何度も遊ばれた親父さんは、私の顔を見たらなんと言うだろう。
怒鳴られて追い払われてもいいから、あのでかい尻をなで回したい。できれば、顔を埋めて割れ目の匂いを嗅ぎたい。きっと今日も臭いはずだ。
雑木林に隠したバイクにもたれかかりながら玄関と納屋をしばらく見張る。
朝露の光るここらの空気はおいしくもあるが身にこたえる冷たさだ。鳥だけが忙しく、農夫の家に動きはない。まだ納屋には入っていないのだろう。
1階に明かりがついているから人がいるのは確かだ。朝食中ということか。
親父さん、新聞でも読んでいるのかな。頼むからウンコは我慢しておいてほしい。
つらつらとタイミングを計りかねているうちに、時計は7時半を過ぎた。太陽が辺りを広く照り返すようになったが、結構寒い。どうしようか・・・。
ばたん!
唐突に玄関が開き、作業服姿の禿げ親父がのっそりと一人で出てきた。徳田さんだ!
彼はまっすぐ納屋に入っていった。太った体でゆっくりと移動しながら、なにやらごそごそとやっている。
そして、抱えた物を外のトラックの荷台に置くとまた納屋に入っていく。
今だ。玄関から出てくる人もなさそうだ。
私はなるべく足音がしないように道路を渡り、徳田家の敷地に入ると、親父さんが一人で作業している納屋へ一直線に向かった。
 
土臭い納屋の入り口に立つと、親父さんは背中を向けて奥の棚から道具類を手に取っていた。
尻が作業ズボンをぱんぱんに膨らませている。いい尻だ。くせえんだろうな。
足ががたがたしてきた。
来てみたものの、なんと声をかければいいんだ?「徳田さん、おはようございます。」と自然に声をかけるつもりだったが、できない・・・。
トラックに運び込む道具が決まったらしく、ついに親父さんがくるりとこちらに体を向けた。当然、入り口につっ立っている私、つまり憎き変態野郎と目が合う。
親父さんは少し眠そうな顔だった。いきなり、ふわあ、と大あくびをした。
眠たそうな親父さんは、表情一つ変えることなく、太った体でゆっくりと私の目の前まで歩いてきた。
「何しに来た?」
怒鳴るでもない声。追い払うでもない目つき。眠たそうに、ただそう聞いてきた。徳田さんの顔、徳田さんの声だ。
私の両足は落ち着きを取り戻すどころか、ますますがたがたと震え出した。
「あの・・・!親父さんに会いたくて・・・!」
声まで震えっ放しだ。挨拶するのも忘れた。徳田さんは、そんな私の様子を見てにたっと黄ばんだ歯を見せた。
「足ががたがたじゃねえか。俺の家に勝手に入り込んで、急に怖くなったのか?」
「徳田さんに会いたかったんです・・・。何かお手伝いさせてください。なんでもいいですから、手伝わせてください。」
「これ、トラックの後ろに置いてこい。」
ぐいっと押しつけられた鎌やシャベルをなんとか受け取り、私はトラックの荷台にそれらを置いた。
この前はここで農夫のゆで卵入り極太野糞をたっぷり観察し味わったんだよな。ウンコの匂いは残っていないようだ。
納屋の入り口に戻ると親父さんが中から手招きした。おそるおそる近寄る。
「肥料の袋だ。ちょっくら重てえぞ。運べるか?」
私は袋を持ち上げた。20kgはあるだろうか。一応運べそうだ。
荷台に置いて中に戻ると、親父さんが優しい顔で私の頭を不器用になでた。
「俺も年だからよ。あれ持つと踏ん張りすぎて糞が出そうになるんだ。助かった。」
私は笑ってしまった。うんっ、ぶりぶりぶりっ!と尻からウンコを漏らす禿げ親父の間抜けな姿を思い浮かべてしまう。すると、足の震えが収まってきた。
「軍手だ。ちゃんと着けねえとけがするからな。助手席に乗れ。」
徳田さんは今までの屈辱を忘れてしまったかのように、私の手に優しく軍手を着けさせ、なんと私の手を引いてトラックまで連れていくと助手席のドアを開けた。
度重なり強制されたあの無様な排便を忘れてはいないはずだ。「おめえは絶対許さねえ!」と繰り返し大声を張り上げていた徳田さん。
今、彼の表情は穏やかで、私を見る目も非常に柔らかい。
どぎまぎする私を乗せたトラックがぶるるるんと揺れ、農道に向かってごろごろと走り出した。