引っ越し屋の親父#5

冷蔵庫の扉に手をかけた俺を倉森さんが後ろから見てる。
ふいに立ち上がってこっちに来ると、断りもなしに冷凍庫の扉を開けた。とたんに、悪くなったソーセージのような匂いが拡散する。
「マジか。これ、この前の俺のウンコだろ?ちっちゃくなってねえか?」
俺が試しに食べた証拠の歯形も見えてるだろうけど、ラップにくるんだウンコそのものが小さく縮んでるから不思議に思ったみたいだ。
「初めのうちは水分が凍って大きかったんですけど、乾燥してきてこんなになっちゃいました。まだ臭いですけどね。」
倉森さんは無言でラップを鷲掴みにするとウンコを冷凍庫から取り出した。
「軽石みてえだな。」
「ウンコの7割は水分ですからね。解凍してセンズリに使ったりしてたらどんどん小さくなってったんですよ。」
「ふーん。お前、変態だな。」
ちょっとかちんとくる俺。自分で冷凍庫開けておいて、なんだよその言い方。
倉森さんは、黄色いオシッコがかちかちに凍ったタッパーも見つけた。その量の多さに驚きはしたけど、すぐに戻してしまった。
 
缶ビールを開けてからの二人の会話はあまり弾まなかった。俺も飯を終えて一緒に酒を飲ませてもらってるっていうのに、微妙に気まずい。
「ああ、なんかくせえなあ。さっきのウンコの匂いがまだ部屋に残ってねえか?」
急に大声で倉森さんが言った。ちょっと怒ってるみたいだ。
「まだ匂いますね。窓開けましょうか?」
「やめろよ、寒いだろ。ああ、くせえなあ。」
どうしよう。この調子だと、なんか絡まれそうだ。倉森さんは3本目の缶ビールを飲み干した。
「お前よお、そんなに人のウンコとかションベンが好きなのか?」
また「お前」呼ばわり。目が座ってる。
「倉森さんみたいながっちりしたおじさんのウンコが手に入るなんて思ってもいなかったから。うれしくて、ずっと保存してるんです。」
「うれしくてって、本気で言ってんのか?3ヶ月もだぞ?臭くって普通いやになるだろ。普通はよお。」
俺はまたかちんときながらも、慎重に言葉を選んで答えた。
「変態に思われてもしょうがないですけど。倉森さんのウンコは、生臭くてでっかいときのも、乾いてちっちゃくなったときのも、どっちも臭いし肉っぽい味がして興奮します。」
「興奮しますじゃねえよ、ホモ野郎。」
やっぱり絡んできた。酔いが回ったことで、あのときの屈辱がフラッシュバックしてるんだ。若い男に自分の秘部をもてあそばれた屈辱は半端なものではなかったはずだ。
筋肉の発達した太腿が俺の腿をがつんと押しやった。
「よお、ホモのくせに俺に大恥かかせてくれたな。割れた皿なんか、でかすぎてどうせ使わねえんだろ?
お前、謝るだけじゃ駄目だな、って脅してきたよな。今日もあんときのミスをネタに俺のケツの穴なめる気か?」
おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。そんなこと、一言も言ってねえだろうが。
俺はこの酔っ払い親父にだんだんいらいらしてきた。大皿は使わないんだろとか、また脅してくるとか、言いがかりもいいとこだ。
「じゃあ、脅してやるよ。今から俺の言うこと聞かなかったら、あのときのあんたのミスを会社に通告してやろうか?」
倉森の酒焼けした目がぎろりとにらんでくる。鼻息も荒くなってる。俺はかまわず続けた。
「そうだなあ、まずはベッドの上で四つん這いになってくれよ。あんたのくっせえケツの匂い、思いっ切り嗅ぎまくってやる。
いやなら俺をぶん殴ってここを出てってもいいんだぜ?明日からのあんたの仕事がなくなるだけだ。
ああ、それより暴行されたって通報するのが先か。あんた、逮捕されちゃうぜ。48歳だったよな。子供も奥さんも路頭に迷うことになるなあ。」
「うるせえよ!黙れホモ!!」
倉森が低音を含んだ太い怒鳴り声を上げた。
正直すげえ迫力で怖かった。引っ越し作業で鍛え抜かれた両肩の筋肉ももりもりに盛り上がってるし。
けど、絡んできたのは向こうなんだ。ホモ、ホモって、言いたいだけ言わせておいて、黙って受け流すわけにはいかない。
倉森はホモが嫌いなんだ。「俺がホモなわけないだろ。」って言ったのも、心の底でホモを毛嫌いしているからこそだ。
さっきの「興奮しますじゃねえよ、ホモ野郎。」だって、完全に俺を侮蔑した言い方だった。
「四つん這いになれよ、倉森。くせえケツに鼻突っ込んで、くんかくんか嗅ぎ回してやるよ。
できないんなら、皿を割ったこと、会社に言うからな。殴りたいか?手がぷるぷるしてるぜ?」
事実、倉森の腕は怒りで震え、顔は赤みがいっそう増して沸騰状態になっていた。
「お前こそ、声が震えてるじゃねえか。俺が本気で殴ったら、生っ白いお前なんか秒殺なんだぜ。
お前は俺の弱みを握ってるつもりだろうが、また目の前でウンコとションベンしろって脅迫されたら正当防衛はしねえとな。ぶん殴るぞ、ホモ野郎。」
「ああ!俺はあんたの嫌いなホモ野郎だ!あんたのケツをなめたいって毎日思ってたし、そろそろ新しい倉森ウンコが欲しいって思ってたよ!
会社にミスをばらされたり殴って逮捕されたりする前に、俺の前で四つん這いになったほうが賢いんじゃないか?
この前だって、あんたは俺のためにケツを丸出しにして舌や指を受け入れたじゃないか。だったら、今だってできるだろ。
四つん這いになれよ、倉森!ケツの穴からでっけえ糞ほじくり出してやるよ!」
狭い6畳の部屋に俺の怒鳴り声がわんわん響く。自分でも驚くほどすらすらと、強面の酔っ払い親父に畳みかけていた。
倉森は目を赤くしたままぴくりとも動かない。それから、筋肉だるまのような巨体をのそのそと動かし、ついにはベッドの上、つまり俺の目の前で四つん這いの格好になった。
そして、いきなり俺に向かってこう言ったんだ。
「私のくせえケツを嗅いでください。お客さんのお好きなように、私のくせえケツをいじってください。
お願いですから、会社にはばらさないでください、お願いします・・・。」