悪役無惨#9

「先生、ちょっと・・・。」
熊田さんが準備室からいかつい顔を出して私を呼んでいる。さすがに怒ってるかも。心臓を早打ちさせながら、おそるおそる小部屋へ入った。
室内にはほんのりと生臭い大便臭が残っていたが、汚れ物はすっかり片づいている様子だった。
熊田さんはジャージ姿に戻っていた。体育の先生みたいだ。
逆に、ドラグール大王からごま塩頭の気のいい親父さんに変身したようにさえ感じる。
「すみません。褌をすっかり汚してしまいました。お返しするのも失礼なくらいに汚しちゃったんです。弁償させてください。」
唐突な謝罪に、私は首が取れそうなほど大きく頭を振った。
「とんでもない!謝礼だって少ししかお渡しできなくて申し訳ないのに。熊田さん、この話はやめましょう。使い捨てでも全く問題ない品ですから。お願いします。」
私は頭を下げ続け、熊田さんの律儀な良心をなんとかなだめた。やっとのことで「そうですか。ほんとに申し訳ないです。」と言ってもらえた。
「それから、すみませんついでで図々しいお願いなんですが。メモ用紙と鉛筆を貸してもらえませんか?セロテープもあるといいんだけど。」
再びの変化球に私は困惑した。とりあえず、引き出しを開けて言われた物を用意すると、熊田さんは机の上で鉛筆を握った。
「先生、あのいたずらっ子の名前を教えてほしいんですが。どういう字ですか?」
「剛君です。りっとうの。」
うんうんとうなずいて熊田さんがすらすらと何か書き始めた。後ろに突き出されているでか尻に顔を埋めて匂いを嗅ぎたいが、絶対に無理だろう。ああ、私も子供だったらなあ。
書き終えると、熊田さんはタオルを入れていた透明な袋にメモを貼り付けた。
「先生、今日もとても楽しかったです。またドラグールをやらせてください。今度はどんないたずらをしてくるか、楽しみが一つ増えました。」
この人、ほんとに、心身ともに、ケツの穴の太い親父さんだ・・・。常人であれば怒るか羞恥に打ちのめされるかして、金輪際の付き合いを断たれかねない局面だというのに。
「これをあとであの子に渡してあげてください。たぶん、いやがらないと思いますから。」
柔和な表情で、熊田さんが私の両手に中身の透けた袋を置いた。ずっしりと重く、鮮やかな赤い色をしている。私は手の震えを必死でこらえた。
「あの、もう少し子供たちと遊んでってもいいですよね?片づけも手伝いますよ。」
私が「ええ・・・。」と曖昧な返事をすると、熊田さんはさっさと準備室を出ていってしまった。外で子供たちが熊田さんを取り囲む明るい声が聞こえる。
悪いと思いながら、少しだけと、袋を開いた。つーんと下痢臭い匂いが上がる。外したばかりの赤褌が大ざっぱに畳んでくるくると丸められてあった。
取り出すのはやめよう。これは熊田さんが剛君にあげたものだ。
袋を閉じて、貼られたメモを見た。豪快な字で書き付けられた内容は非常に短いものだった。
 
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剛君へ
君の勝ちだ!
 ドラグール
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大きな体の熊田さんは男児にとても人気がある。
仮面を脱いでも結局強面なのでドラグール大王扱いされてしまう。そのため、多くの男児が自分の力を試そうと飛びかかる。
熊田さんはその一人一人にまともに応戦して怪力を見せつけた。熊田さんの巨体に絡み付き、太ったおなかや筋肉むきむきの腕や足をべたべたと触る子もいる。
「すげえ!」「かっけえ!」と子供たちに素直に賞賛されて、素直な熊田さんもますます遊びに熱中する。四つん這いにされると、何人もの下級生を乗せて荒馬のように揺すったりした。
みんなが熊田さんから振り落とされまいときゃあきゃあ騒いでいる後ろで、剛君は馬になって大きく突き出された尻に抱きつき割れ目に顔を押しつけていた。
みんなや熊田さんの隙を的確に狙って、大人の男のケツ穴の匂いを何度も何度も嗅ぐ。少なくとも、私と熊田さんはちゃんと気づいていた。
熊田さんは剛君の尻嗅ぎ攻撃をしたいようにさせていた。四つん這いのときに限らず、立っている背後からでか尻に顔を埋めて深呼吸することさえ許していた。
そして、剛君は私の様子を見てときどき報告に来る。悪い笑みを浮かべて、何度もこう言うのだ。
「臭いよ。」
みんなでお礼を言って帰りをお見送りしたとき、遠ざかる熊田さんをじっと見ていた剛君が突然館内を飛び出した。私があわてて追いかける。
熊田さんが振り向くと、剛君はジャージ姿の巨体に思い切り抱きついた。普段はひょうひょうとしている少年が、はっきりと言葉を振り絞る。
「また来てください。熊田さん。」
これほど強い意思表示をする彼を見たのは初めてだった。熊田さんは剛君を抱き上げて顔と顔がくっつくくらいの距離で穏やかに答えた。
「また、いっぱい遊ぼうな。」
剛君が珍しく「うん。」と声に出して返事をすると、熊田さんは地面に下ろした少年の坊主頭を大きな手でくしゃくしゃとなでた。
温かくて優しい男の目だ。3年生の子供にとっては、まるで父親に丸ごと包容されているかのような、安心感に満たされたひとときだろう。
・・・そういえば、剛君には父親がいない。もしかしたら、全力でいたずらしてもがっしりと受け止めてくれる父親の存在を熊田さんに見いだしているのかもしれない。
 
時刻は夕方の6時を回っていた。電話に出た親御さんに適当に理由を付けておき、今の館内には私と剛君しかいない。
まずはロッカーを開けて一冊のファイルを取り出す。ロッカー内も便所のように臭いが、表紙の上に仲良く並んだ2本のウンコがもろに臭い。
重たい収穫物を傾けないよう慎重に運び、薄暗い準備室に二人で入った。
「すごいね。太い。」
ファイルに顔がくっつかんばかりの至近距離で、剛君がごろりと寝そべる大便を観察する。
でこぼこした表面の匂いを嗅ぎ、堅いところと柔らかいところの色の違いをしげしげと眺める。
「熊田さんって何歳?」
「55歳だよ。」
剛君は2本のウンコを全体的にゆっくりとなでた。太くなったりくびれたりするところが気に入っているようだ。
「すごいね。55歳になってもこんなにでっかいウンコ出すんだ。」
大人のウンコを間近で観察できて、かなり興奮しているのか呼吸が荒い。
「熊田さんは毎日いい食事をしてるんじゃないかな。結婚してるって言ってたから。」
「子供もいるのかな?きっと、奥さんも子供も熊田さんのでっかいウンコ見たことないよね。見られたら恥ずかしいし。」
その禁断の権利を俺は手に入れたぞと自慢するように、少年の手は中年男の大便を満足げになで回した。
ついに鼻を表面にくっつけて「くせえ。くせえ。」と何度もつぶやく。それからいきなり顔を上げると、得意げに言った。
「ケツの穴もすごくぬるぬるしてて苦かったよ。舌入れたらウンコいっぱい入ってた。ケツ毛も抜けてきたし。マジ臭かったよ。」
「その熊田さんが君に渡してくれって、これを置いていったんだよ。」
メモを読み、透明な袋に入った赤褌を見て、剛君は「すげえ!」と鼻息荒く声を上げた。
「俺の勝ちだって。開けてもいい?」
「いいよ。先生も見てみたいんだ。」
無邪気に「だよね。」と喜びながら袋を開け、丸められたさらしを慎重に取り出した。
ファイルの上の堅い大便とはまた違う、つんとした湿り気のある下痢臭が広がった。
「臭い。先生、これ広げてほしい。」
私は赤褌を受け取ると、大役を快く引き受けた。くるくると赤のさらしを伸ばし、畳まれているところを丁寧に広げる。
予想を上回る贈り物を目の当たりにして、二人同時に溜息を付いた。
「すげえ・・・。」
尻に食い込んでいたところは、両側とも黄色っぽく緩い便がこんもりと乗っかったままになっている。
その少し上、つまり腰に沿ってよじった布には、そこでケツ穴を何回も拭いたと見られる黄土色の痕跡がべっとりと付着していた。
さらに驚いたのは、褌で包んだように中から出てきたティッシュの山だった。ほどいてみると、こちらにも尻を拭いた跡がこってりと付いた紙が数枚。
そして、何枚か重ねたティッシュの中央に、10cmほどの柔らかいウンコと5cmほどの堅いウンコがそれぞれくるんであった。
屈辱の取り組みだけでは全部出し切れなかったウンコを準備室で一人踏ん張ったのだろう。残便にしては結構太い。
褌をほどいてまもなく、室内が50代親父のウンコの匂いで充満した。
剛君は「すげえ。すげえ。」と、のどが枯れたような声を上げている。ほんとにうれしそうに、机に陳列された大人の男の排泄物を順番にじっくり観察している。
「食べカスが入ってる。野菜とか見えてるよ。やっぱ、ウンコって人が食べ物を消化して出来た物なんだ。熊田さん、体でかいし、いっぱい食べるんだ。」
そこで、私は剛君に呼びかけ、隠し持っていた物を目の前で広げてみせた。
「すげえでっかいパンツ。」
「熊田さんのだよ。回しを着けてあげたときに別のパンツとすり替えたんだ。今日履いてたトランクスだから結構臭いよ。嗅いでみなよ。」
少年は「いいの?」と言いながら、目をぎらつかせてLLサイズの汚れパンツに頭を入れた。
布をずらしてあちこちの匂いを楽しんでいる。くんくんと嗅ぎ回す息が荒い。
「熊田さんの匂いがする。チンポのところ、すげえオシッコ臭い。ケツのところもすげえウンコ臭い。大人なのに恥ずかしいね、熊田さん。55歳なのに。」
「そうだね。」
剛君が切迫したように、大きなパンツを握り締めたまま立ち上がった。
「トイレ行ってくる。先生も我慢しなくていいよ。」
 
一人きりの準備室で、私はドラグール大王こと熊田さんの無様な敗北の産物を思う存分観察し、触り、匂いを嗅いだ。
あの筋肉親父の赤黒い雄穴からひり出たぶっといウンコ。汚い音を立てて一気にさらしを膨らませた軟便。
屈辱を噛みしめてこの場で出し切った短いウンコ。下痢でぎとぎとになった力士の回し。
くせえ、ああくせえ、くっせえよ。私は言われるまでもなく、我慢せずに熊田さんのウンコで抜いた。
トイレにそっと近づくと、くせえ、熊田さんくせえ、くせえ、熊田さん、くせえ、と押し殺した少年の声がしていた。
彼はこの先、熊田さんを父親としてだけでなく性的対象として追いかけ続けることになるだろう。倒錯の道をたきつけているのはほかでもない、この私だ。
戻ってきた剛君はすっきりした顔をしていた。私もそう見えているのかも。
でかパンを私に返してから、下痢便で汚れた赤褌と残便をくるんだティッシュの詰まったビニール袋を手にした。
さて、残るは私たちの面前でめりめりと押し出してくれた大物2本だ。未だにファイルの上に寝そべっている。悠々と横たわる茶色の胴体は見るからにふてぶてしい。
「これは山分けしようよ。俺と柏木先生でゲットしたんだし。どっちもよくて選べないから、何個かに切り分けて持ち帰ろうよ。」
私も異議はなかった。よく頭の働く子供だ。
キッチンからケーキナイフとナイロンの袋を借りてきて、双方が納得する形で2本の大便を山分けした。
剛君は太くなっているところを欲しがり、私は苦そうなしっぽの辺りを欲しがったので、お互いちょうどよかったようだ。
熊田さんも、まさか消えたはずの自分のウンコが悪党どもによって山分けの対象にされているなんて夢にも思わないだろう。室内がますます臭くなった。
「ねえ、剛君は熊田さんのこと好きなの?」
「めちゃくちゃ好き。先生は?」
「めちゃくちゃ好き。またドラグール大王を呼んで、恥ずかしいいたずらしちゃおっか。」
剛君は目を輝かせて「うん!内緒でね!」とうなずいた。
熊田さん、あなたはもう逃げられませんよ。
 
(完)