還暦の穴#1

「勝呂君は大学で何を専攻してるの?」
「電気工学です。電子回路の設計がやりたくて。」
「そうか、すごいなあ。内の会社にもそういう部門があるから、4年生になったら受けてみたらどうかな?」
「あはは、今は早い人だと2年から就活なんですよ、土肥さん。俺は3年からやるつもりなんですけどね。」
「そういえば内にも3年生の学生から履歴書が来てるよ。君らも大変だよなあ。」
少ない白髪を撫でつけた丸頭をかきながら、くりくりした大きな目で俺を見上げてきた。
「じゃあ、来年に向けてがんばれよ。」
土肥さんは、少し鼻にかかった滑らかな声で、はっきりと激励してくれた。
この朗々とした中低音の声と、卵みたいな顔、髪の薄い頭、
そしてタヌキのような腹周りまで備えた土肥二郎さんが、俺のお気に入りだ。
土肥さんも、俺のことを前途ある好青年と思って親しくしてくれる。
駅で毎朝同じ列に並んで話をする。俺の大学生活のこと、彼が奥さんと行った旅行のこと。
土肥さんは、スーツもよく似合う、穏やかな紳士だ。
物知りだし、俺たち若い側にも肯定的だし、尊敬できる親父さんだ。
そんな土肥さん、いや、タヌキ親父の肥えた体を、食いたくて食いたくてたまらない。
土肥のぶりんぶりんした尻を俺の手で淫卑に責め抜いて、土肥を思いっきりヨガらせたくて仕方ない。
俺はこのノンケ親父に対する食欲を、そろそろ抑えられなくなってきていた。
 
「おっ、今日は人がいっぱい乗ってるなあ。行けるかな?ははは。」
二人で人混みと化した列を進む。
「事故でもあったんですかね。とりあえず乗ってみましょう。」
たまにこういう満員電車にぶつかってしまう。普段は二人で座りながら30分、ゆっくり話をしていけるのに。
発射ベルを耳にしながら、ようやく車内に二人で滑り込んだ。
土肥さんは、座席の壁の一角に、ドアを背にして、小太りの体を押し入れた。
俺はドアに肩をつけて、土肥さんの左に立つ。
「なんとか乗れたなあ。すごい人だ、もう身動きが取れないよ。勝呂君は大丈夫か?」
顔だけ振り向いた土肥さんの口元は、キスができるほどの至近距離にあった。
温かい息と一緒に、心地よい加齢臭が俺の鼻に流れ込んでくる。
髪を撫でつけるポマードの甘ったるい香りにもくらくらしてしまう。
「ええ、なんとか。ちゃんと立ててます・・・。」
それを聞いて安心したのか、土肥さんは俺が乗りそびれないようにと腰に回していた手を自分のほうに戻した。
そして、腕組みするような格好で、正面の空間にバッグを固定した。
 
車内は押し黙っている。
俺たちにも、会話をする隙間がない。
目の前の、今年還暦を迎えた、親父臭い横顔を眺める。還暦の、体の涸れた匂いを吸い込む。
密着しているから、よく肥えた腹や尻の、柔らかさと温もりを感じる。
そのどれもが、俺の邪悪な責め師の心をダイレクトに呼び覚ました。
 
・・・土肥。
ごめんな。俺は、お前が思ってるような青年なんかじゃ、ないんだ。
たっぷり後悔してくれ。
まあ、後悔どころか、お前がケツをねだるくらい、今から気持ちよくしてやるからよ。
還暦の体で、どれだけ耐えられるかな?
今朝はまだ糞してないことを祈るぜ。